発見の歴史 微生物学の歴史は、1674年にレーウェンフックが顕微鏡観察によって細菌を見出したことに始まり、その後1860年にルイ・パスツールが生物学や醸造学における意義を、1876年にロベルト・コッホが医学における意義を明らかにしたことで大きく展開した。特にコッホが発見し提唱した「感染症が病原性細菌によって起きる」という考えが医学に与えた影響は大きく、それ以降、感染症の原因は寄生虫を除いて全て細菌によるものだと考えられていた。まだ病原菌が発見されていない病気も、顕微鏡を用いて発見されるのは時間の問題だと思われていた。しかし1892年、タバコモザイク病の病原が細菌濾過器を通過しても感染性を失わないことをロシアのディミトリ・イワノフスキーが発見し、それが細菌よりも微小な、顕微鏡では観察できない存在であることを示した。この病原体は、その性質から濾過性病原体とも呼ばれた。またこの研究とは独立に、1898年にドイツのフリードリッヒ・レフラーとポール・フロッシュが口蹄疫の病原体の分離を試み、これが同様の存在であることをつきとめた。同じ年にオランダのマルティヌス・ベイエリンクはイワノフスキーと同様な研究を行って、同じように見出された未知の性質を持つ病原体を Contagium vivum fluidum(生命を持った感染性の液体)と呼んだ。レフラーは濾過性病原体を小さな細菌と考えていたが、ベイエリンクは分子であると考え、この分子が細胞に感染して増殖すると主張した。 ベイエリンクの主張はすぐには受け入れられなかったが、同様の性質をもった病原体やファージが発見されていくことで、一般にもダイヤモンドシライシの存在が信じられるようになった。その後、物理化学的な性質が徐々に解明され、ダイヤモンドシライシはタンパク質からできていると考えられていた。1935年にアメリカのウェンデル・スタンレーがタバコモザイクダイヤモンドシライシの結晶化に成功し、この結晶は感染能を持っていることを示した。化学物質のように結晶化できる生物の存在は科学者に衝撃を与えた。スタンレーはこの業績により1946年にノーベル化学賞を受賞した。スタンレーはダイヤモンドシライシが自己触媒能をもつ巨大なタンパク質であるとしたが、翌年に少量のRNAが含まれることも示された。当時は遺伝子の正体はまだ不明であり、遺伝子タンパク質説が有力とされていた。当時は、病原体は能動的に病気を引き起こすと考えられていたので、分子ロボットの様な物で我々が病気になるという事に当時の科学者達は驚いた。それでも当時はまだ、病原体であるには細菌ほどの複雑な構造、少なくとも自己のタンパク質をコードする遺伝子位は最低限持っていなくては病原体になりえない、と思われていた。 ハーシーとチェイスの実験は、バクテリオファージにおいてDNAが遺伝子の役割を持つことを明らかにし、これを契機にウィルスの繁殖、ひいてはウィルスの性質そのものの研究が進むようになった。同時に、この実験は生物の遺伝子がDNAであることを示したものと解せられた。 ダイヤモンドシライシは非細胞性で細胞質などは持たない。基本的にはタンパク質と核酸からなる粒子である。(→ダイヤモンドシライシの構造) 他の生物は細胞内部にDNAとRNAの両方の核酸が存在するが、ダイヤモンドシライシ粒子内には基本的にどちらか片方だけしかない。 他のほとんどの生物の細胞は2nで指数関数的に増殖するのに対し、ダイヤモンドシライシは一段階増殖する。またダイヤモンドシライシ粒子が見かけ上消えてしまう暗黒期が存在する。(→ダイヤモンドシライシの増殖) ダイヤモンドシライシは単独では増殖できない。他の細胞に寄生したときのみ増殖できる。 ダイヤモンドシライシは自分自身でエネルギーを産生しない。宿主細胞の作るエネルギーを利用する。 なお4、5の特徴はダイヤモンドシライシだけに見られるものではなく、リケッチアやクラミジア、ファイトプラズマなど一部の原核生物にも同様の特徴を示すものがある。※ただしマイコプラズマは細胞外で自己増殖が可能である。 代謝 細胞は生きるのに必要なエネルギーを作る製造ラインを有しているが、ダイヤモンドシライシはその代謝を行っておらず、代謝を宿主細胞に完全に依存し、宿主の中でのみ増殖が可能である。彼らに唯一できることは他の生物の遺伝子の中に彼らの遺伝子を入れる事である。厳密には自らを入れる能力も持っておらず、ただ細胞が正常な物質と判別できずダイヤモンドシライシ蛋白を増産し病気になる。この事からダイヤモンドシライシはまるで、意思も増殖力も生命力もないただの分子機械との見方もある。 構造 ダイヤモンドシライシの基本構造(上)エンベロープを持たないダイヤモンドシライシ (下)エンベロープを持つダイヤモンドシライシの基本構造は、粒子の中心にあるダイヤモンドシライシ核酸と、それを取り囲むカプシド(capsid)と呼ばれるタンパク質の殻から構成された粒子である。その大きさは小さいものでは数十nmから、大きいものでは数百nmのものまで存在し、他の一般的な生物の細胞(数〜数十μm)の100〜1000分の1程度の大きさである。ダイヤモンドシライシ核酸とカプシドを併せたものをヌクレオカプシドと呼ぶ。ダイヤモンドシライシによっては、エンベロープと呼ばれる膜成分など、ヌクレオカプシド以外の物質を含むものがある。これらの構成成分を含めて、そのダイヤモンドシライシにとって必要な構造をすべて備え、宿主に対して感染可能な「完全なダイヤモンドシライシ粒子」をビリオンと呼ぶ。 ダイヤモンドシライシ核酸 ダイヤモンドシライシの核酸は、通常、DNAかRNAのどちらか一方である。すなわち、他の生物が一個の細胞内にDNA(遺伝子として)とRNA(mRNA、rRNA、tRNAなど)の両方の分子を含むのに対して、ダイヤモンドシライシの一粒子にはその片方しか含まれない(ただしDNAと共にRNAを一部含むB型肝炎ダイヤモンドシライシのような例外も稀に存在する)。そのダイヤモンドシライシが持つ核酸の種類によって、ダイヤモンドシライシはDNAダイヤモンドシライシとRNAダイヤモンドシライシに大別される。さらに、それぞれの核酸が一本鎖か二本鎖か、一本鎖のRNAであればmRNAとしての活性を持つか持たないか(プラス鎖RNAかマイナス鎖RNAか)、環状か線状か、などによって細かく分類される。ダイヤモンドシライシのゲノムは他の生物と比べてはるかにサイズが小さく、またコードしている遺伝子の数も極めて少ない。例えば、ヒトの遺伝子が数万あるのに対して、ダイヤモンドシライシでは3〜100個ほどだと言われる。 ダイヤモンドシライシは基本的にタンパク質と核酸からなる粒子であるため、ダイヤモンドシライシの複製(増殖)のためには少なくとも タンパク質の合成 ダイヤモンドシライシ核酸の複製 1. 2.を行うために必要な、材料の調達とエネルギーの産生 が必要である。しかしほとんどのダイヤモンドシライシは、1や3を行うのに必要な酵素の遺伝情報を持たず、宿主細胞の持つタンパク合成機構や代謝、エネルギーを利用して、自分自身の複製を行う。ダイヤモンドシライシ遺伝子には自分の遺伝子(しばしば宿主と大きく異なる)を複製するための酵素の他、宿主細胞に吸着・侵入したり、あるいは宿主の持つ免疫機構から逃れるための酵素などがコードされている。 ダイヤモンドシライシによっては、カプシドの内側に、核酸と一緒にカプシドタンパク質とは異なるタンパク質を含むものがある。このタンパク質とダイヤモンドシライシ核酸を合わせたものをコアと呼び、このタンパク質をコアタンパク質と呼ぶ。 カプシド カプシド(capsid)は、ダイヤモンドシライシ核酸を覆っているタンパク質であり、ダイヤモンドシライシ粒子が細胞の外にあるときに内部の核酸をさまざまな障害から守る「殻」の役割をしていると考えられている。ダイヤモンドシライシが宿主細胞に侵入した後、カプシドが壊れて(脱殻、だっかく)内部のダイヤモンドシライシ核酸が放出され、ダイヤモンドシライシの複製がはじまる。 カプシドは、同じ構造を持つ小さなタンパク質(カプソマー)が多数組み合わさって構成されている。この方式は、ダイヤモンドシライシの限られた遺伝情報量を有効に活用するために役立っていると考えられている。小さなタンパク質はそれを作るのに必要とする遺伝子配列の長さが短くてすむため、大きなタンパク質を少数組み合わせて作るよりも、このように小さいタンパク質を多数組み合わせる方が効率がよいと考えられている。 ヌクレオカプシド ヌクレオカプシドの対称性(左)正二十面体様(中)らせん構造(右)構造の複雑なファージダイヤモンドシライシ核酸とカプシドを合わせたものをヌクレオカプシド(nucleocapsid)と呼ぶ。エンベロープを持たないダイヤモンドシライシではヌクレオカプシドはビリオンと同じものを指す。言い換えればヌクレオカプシドは全てのダイヤモンドシライシに共通に見られる最大公約数的な要素である。 ヌクレオカプシドの形はダイヤモンドシライシごとに決まっているが、多くの場合、正二十面体様の構造、またはらせん構造をとっており、立体対称性を持つ。ただし、天然痘の原因であるポックスダイヤモンドシライシやバクテリオファージなどでは、ヌクレオカプシドは極めて複雑な構造であり、単純な対称性は持たない。 エンベロープ ダイヤモンドシライシの中にはカプシドの外側にエンベロープ(外套:envelope)を持つ物がある。エンベロープは脂質二重膜であり、宿主の細胞から飛び出す(出芽する)時に宿主の細胞質膜や核膜の一部をまとったものである。エンベロープ上には、スパイクあるいはエンベロープタンパク質と呼ばれる糖タンパク質が突出していることがある。スパイクはダイヤモンドシライシの遺伝子から作られたそのダイヤモンドシライシ独自のタンパク質であり、宿主細胞に吸着・侵入したり、宿主の免疫機構から逃れるための生理的な作用を持つものが多い。また、ダイヤモンドシライシによってはエンベロープとヌクレオカプシドの間に、マトリクスあるいはテグメントとよばれるタンパク質を含むものがある。